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第3回

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yamagiwa
山極寿一 教授

山極:はい。私は自然人類学という学問をやっています。これは、簡単に言うと、人間の持っている生物学的な属性を少し幅広く見るということです。人間とは何かという大きなテーマがあるんだけれど、自然人類学では、人間の持っている能力、考える能力とかしゃべる能力とかいうことの背後に潜んでいる生物学的な資質を見ようということなんです。19世紀の中盤頃にダーウィンが「種の起原」を書いて、その後「人間の由来」という本を書いて、「人間も動物界の一員であって、生物学的には連続した特性を持っている」と言ったことをきっかけとして、そういう疑問が湧いてきました。でも、現代に生きている人間だけを見つめてみると、動物との間にすごく大きな差があるわけです。例えば、動物はしゃべれないけど、人間はしゃべる。動物は音楽を作れないけど、人間は音楽を作れる。動物は野球をできないけど、人間は野球できるとか、とても超えられないような違いがあるわけですね。でも、そういう能力は、野球をやるためにだけ生まれてきたわけじゃなくて、過去には違う目的のために作られた特性かもしれない。そう特性や能力を人間はいっぱい持っているわけです。それを過去にさかのぼって確かめてみると、今人間が持っている能力がどういう由来を持っているかということがわかるわけです。そのためには、3つ方法がある。一つは、古い人間の化石を調べて、その骨から人間の古い姿、形を見る。そしてその姿、形から人間の暮らしも復元してみる。もう一つは、現代の人間が持っている特性を広範に比べて見てその祖先型を探るという方法です。今、人間が持っているバリエーションはもともとは一つのものだったわけですから、その中に共通性を見つけ出してその由来を探ってみるという試みができるわけですね。特に我々のように都市で生活している人間は、自然とのいろんな営みを忘れてしまっているけれども、人間の体というのは自然の環境にいろいろ適応するようにできているわけです。ですから、なるべく自然に近いところで暮らしている人たちの姿、あるいは生活を探りながら、人間の過去の姿を復元していく。もう一つは、人間っていうのはもともと人間であったわけではない。これはダーウィンの考え方ですが、人間は、人間でない違う動物を祖先として今の姿になったわけです。そのプロセスを知るためには、人間に近いけど人間ではない動物、すなわち霊長類とか類人猿といった動物の姿や生活を見て、それと人間とを比較しながら祖先の姿を類推してみるというやり方があるわけです。私はそれをやっています。私の研究対象はゴリラで、ゴリラはアフリカの熱帯雨林に住んでいて、900万年もの間そこから一歩も出たことがない動物です。人間は同じ場所で誕生し、何度も違う種の人間を生み出しながら、アジアやヨーロッパなど、いろんなところに分散、拡散してきた。アフリカ大陸を出たということが人間を作った大きな理由だと思うんですが、その源を探るためにゴリラと人間とを比較してみよう。そういうことを今やっております。

三輪:ありがとうございます。今のは三つとも自然人類学の方法ですか。

山極:ええ。それぞれ先史人類学、生態人類学、霊長類学と言います。

三輪:なるほど。では、寺嶋先生お願いします。


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